The Model型事業の全体最適化とインサイドセールス/カスタマーサクセスの役割
The Modelとは
書籍『The Model』の中で示されたフレームワークで、著者の福田康隆氏がSaleforce社で働いていたときに考案した営業手法です。顧客の獲得から育成、定着や拡大までのあらゆる営業活動を細分化し、企業内で分業する点に特徴があります。
これまでは営業担当1人が獲得(営業リスト作成)、商談設定、契約までを一気通貫で行うのが一般的でしたが、 分業して各プロセスの効率性やOPS精度を高めたほうが、営業組織として生産性を向上させやすい面があります。
具体的な各プロセスは
- マーケティング:見込み顧客の獲得
- インサイドセールス:案件・商談の獲得
- フィールドセールス:契約の獲得
- カスタマーサクセス:既存顧客の契約継続や顧客単価の向上
SaaS型ビジネスモデルの普及とともにThe Model型の分業体制を取る事業が増加しています。
事業立ち上げ初期などは少数のスタープレイヤーが新規開拓から契約後のフォローまで全てこなすケースもありますが、事業の成長と人員拡大が進むに従いThe Model型の分業体制に切り替え、組織の生産性を向上させるべきタイミングが訪れます。
1人称で完結できる場合は情報連携の必要性も薄く、新規開拓/契約後フォローの時間の使い方は個人の裁量に任せる形になりますが、上記4段階で分業した場合各プロセスのKPIを可視化し、各プロセス間で情報連携しながら組織として生産性を向上させていく必要があります。
具体的なThe Model型事業における全体最適化(生産性の高め方)と、各プロセスの役割および改善の仕方について記載していきます。
目次
1.ボトルネックの特定と解消
The Model型事業においては「ボトルネック工程は常に1つ」という考え方が重要です。集客~契約継続までにおいて、全体の生産性を下げている要因(あるいは全体の生産性を高める箇所)は常に1つのプロセスです。
各プロセスの改善がうまくいったとしても、必ずしも全体の収益向上につながるわけではありません。
例えば、インサイドセールスプロセスにおいて見込客数が過剰にあり対応しきれていない状況で、マーケティングプロセスを改善し見込客数を増やしても全体の生産性は上がりません。
それどころか広告宣伝費の増加や1顧客あたりの接触時間が低減し生産性が下がる危険性もあります。
このように、各プロセスのリソース状況(人員キャパシティ状況)下で『不足』『過剰』どちらの状況にあるかをまずは見極め、生産性向上の方針を立てる必要があります。
1人あたり担当数が少なすぎても(不足)、多すぎても(過剰)生産性は最大化しないため、各プロセスにおいて1人あたりの担当顧客数がいくつの時に生産性が最大化するのか定義しておくことで状態を判断できます。
『不足』を解消するのは時間やコストがかかりやすいため、まずは『過剰』状態にになっているプロセスがないかを確認します。
たとえばインサイドセールスの見込客数が過剰、フィールドセールスの商談数が不足、カスタマーサクセスの契約社数が不足、という状況においてはまずインサイドセールスの過剰を解消し生産性を高めます。
暫定的にはマーケティングプロセスにおいて見込客集客数を絞ります。
このとき、絞り方としてはROASの低い順に集客を絞っていけるとよいでしょう。
結果的に広告宣伝費が削減されインサイドセールスの生産性が高まるため利益率が向上します。
インサイドセールスの人員数が拡充できれば暫定的に絞った集客数を元に戻してもインサイドセールスの過剰が解消でき、フィールドセールスの不足状況が緩和/解消します。
ここで、インサイドセールスの人員を増やし過剰が解消してもフィールドセールスの商談数不足が続く場合 ボトルネックはフィールドセールスの商談数不足(インサイドセールスからの商談送客数)に移りますので、送客数をどう高めるか?についてフォーカスしていくことになります。
このように、まずは過剰になっているプロセスのボトルネックを解消してから、不足プロセスのボトルネック解消を目指していくと全体の生産性向上を進めやすいです。
なお上記の例でマーケティングプロセスにおいて集客数を絞る際にROASを用いましたが、インサイドセールスやフィールドセールスで送客数を絞る上でも最終的に売上(やLTV)に寄与する顧客セグメントは何か?を各プロセス共通認識として持ち、売上(やLTV)寄与の低いセグメントから絞りこんでいくという考え方をとります。
次に、ボトルネックが各工程の『不足』に移った場合、前工程でどう『不足』を解消していくか(各プロセスの改善の仕方)について記載していきます。
2.マーケティング(集客)プロセスの改善
インサイドセールスプロセスにおいて見込客数が不足している場合、見込客集客数を増やす必要があります。まず、自社製品と相性の良いチャネルが何であるかの把握が必要です。
こちらの書籍で分類されている19のチャネル
(1)バイラルマーケティング
(2)PR
(3)規格外PR
(4)SEM
(5)ソーシャル/ディスプレイ広告
(6)オフライン広告
(7)SEO
(8)コンテンツマーケティング
(9)メールマーケティング
(10)エンジニアリングの活用
(11)ブログ広告
(12)ビジネス開発(パートナーシップ構築)
(13)営業
(14)アフィリエイトプログラム
(15)Webサイト、アプリストア、SNS
(16)展示会
(17)オフラインイベント
(18)講演
(19)コミュニティ構築
を参考などにしながら既存チャネルの改善により集客数を増やすか、新しいチャネルに広げて集客数を増やすかなど方針を検討していきます。
この時、顧客の質が集客時に即判定できるようにしておくと全体最適の改善がしやすくなります。
少なくとも有効な見込客であるか無効(対象外)であるかは判定できるようにしておき、集客のパフォーマンスを測定できるようにしておくとマーケティングの工程の施策が全体最適につながっているかをすぐに判断できるようになります。
通常、集客してから契約に至るまでは数ヶ月の時間を要することもあるため、集客時に質の判定ができない場合施策の良し悪しを判断するのにかなりの遅れが出てしまいます。
顧客の質についてはサービスの利用意向度や時間軸(利用意向は高くても導入時期は先など)で判断するとよいでしょう。
利用意向度が高く導入検討タイミングも即、というリードは最も質が高く速やかにインサイドセールスで接触し商談化していきます。
導入検討タイミングが時期先の顧客については顧客管理をしていきながらナーチャリングをし、タイミングに合わせて商談化していきます。
また、利用意向度が一定よりも低い顧客はインサイドセールスで商談化がほぼ期待できず、インサイドセールスの生産性が低減してしまうためインサイドセールスに送客すべきでない対象外(無効リード)の定義を設定します。
有効な見込客を1件追加で集客する費用よりも、期待できる売上(やLTV)の方が高い場合追加集客ができますので、売上(やLTV)>費用が続く限りは既存チャネルで見込客を増やし、インサイドセールスの見込客不足を解消していくことができます。
ただし、あくまでこれは粗利(期待売上から広告宣伝費のみ引いたもの)であるため、厳密に計算可能であれば有効リードから売上を作るための人件費等も考慮した上で利益が出る水準を定めておけるとベストです。
この計算が困難な場合、簡便的に期待売上の半分まで広告宣伝費を使ってもよい等の決めの水準をおいて運用することも選択肢です。
最も気を付けたいのは、有効リードの概念なく集客数をKPIにして運用をまわすことです。
これは無駄に広告宣伝費がかかるだけでなく、商談化できないリードをにも対応するための人員増意思決定に繋がり、事業収益性の悪化をまねく要因となります。
3.インサイドセールスプロセスの改善
フィールドセールスプロセスにおいて商談数が不足している場合、インサイドセールスからの送客数を増やす必要があります。送客の質を犠牲にして量を増やす(とりあえずアポ数を増やす)ことは全体の生産性を下げる結果になるため避ける必要があります。
各工程のKPIのみでコミュニケーションしているとインサイドセールス担当としてはこの誘惑に陥りやすいため、よく注意しておく必要があります。
インサイドセールスとして取り組むべきことは、顧客の利用意向度を高め送客するスキルを研鑽することです。
マーケティングプロセスで顧客の利用意向度や基本的な特性を収集できている場合、インサイドセールスは事前に課題の仮説を立て、利用意向度を高めるコミュニケーションを展開することができます。
電話で見込客と会話ができる場合、ヒアリングによって提案に必要な情報を聞き出すことも可能ですがメールの活用等併用する場合マーケティングプロセスで必要な情報を一定収集しておけると提案の質を向上させることができます。
利用意向度を高めていくには、顧客をセグメンテーションし、セグメントごとの勝ちパターンを見つけていくことになります。
セグメントの切り方は業界・業種・企業規模・エリア・利用意向度などいくつか選択肢が考えられ、分類を細かくするほど対象に合わせたコミュニケーションにしていくことができるメリットがある一方で、 対象セグメントの顧客数が少なくなりPDCAが回しつらい・習熟していきにくいなどのデメリットもあるためバランスを考えながらもっとも有効な切り方を発見していく必要があります。
有効なセグメントができたら、セグメントによって課題となりやすいポイントに合わせて課題を顕在化させ自社サービスの解決策に魅力を感じてもらうスクリプトを作成していきます。
また、チームとして成果を高める場合人員配置も大きな変数となります。
短期的には集客段階での利用意向度が高い顧客にハイパフォーマーを集中して担当させることで取りこぼしがなくなり、成果が向上することがあります。
ただし利用意向度の低い顧客は失注が続くため、利用意向度の高い顧客の勝ちパターンを型化し別メンバーで取りこぼさない状況を作っていきながらハイパフォーマーは利用意向度の低い見込客にチャレンジしくことを目指していくべきです。
最後に商談化をする上では、やはり荷電の方がメールなどよりも有利です。
通電率が全体として低い場合まずここに改善の余地があるかもしれません。
集客してから時間が過ぎるほど通電率は低下していくため、できれば数分以内に荷電できると通電率向上が期待できます。
また、一定までは荷電数も通電率向上に寄与するため一定期間内に何回までは荷電すべきか、決めておけるとよいです。
4.フィールドセールスプロセスの改善
カスタマーサクセスプロセスにおいて契約社数が不足している場合、フィールドセールスからの送客数(契約社数)を増やす必要があります。契約社数を増やすには契約率を高める必要があり、そのためにはニーズ喚起のスキルを研鑽していく必要があります。
ニーズを喚起するには、契約したい/契約しないとまずいという考えになってもらいつつ、契約のハードルをできる限り下げる必要があります。
契約したい/契約しないとまずいという考えになってもらうには、相手の中で課題をできる限り早期に解決すべきものだと認識してもらう必要があり、
そのためにヒアリングを重ねながら「この点が今重要な課題である」という見解を相手から引き出す必要があります。
次に、その重要な課題を解く1番の解決法が自社サービスだということを納得してもらいます。
例えば他顧客の導入事例・実績や、他社サービスとの比較などは定番の説得材料です。
この課題認識を引き出し、自社サービスがその解決法として最もよいという一連のコミュニケーションは一定の型化が可能です。
組織として契約率を上げていくことを考える場合、インサイドセールスの項で記載した内容と同様に有効な顧客セグメンテーションを切り トークスクリプトなどで型化した提案を作成し、組織内に展開します。
また、契約のハードルを下げる点においては初期設定を代行して実施するなどの手間を省く方法や、無料の体験期間を設ける、 成功報酬のプライシングにする、小規模な導入からスタートしてもらうなどコスト面でのリスクを下げる方法などがあります。
なお、勝率の低いセグメントについてはサービスの提供価値が低く顧客のニーズに対応できていない又はそもそもニーズが弱いなど考えられます。
前者の場合、サービスの開発チームへ連携し提供価値を高め、顧客のニーズに対応していけるようにしていきます。
後者の場合、そもそもマーケティングプロセスやインサイドセールスのプロセスで送客の対象外にするという選択肢もありえます。
対象外化することでその分のリソースを見込みの一定ある顧客に割くことができ、生産性が上がる可能性があります。
インサイドセールス同様、人員配置も重要な変数となります。
まず、セグメントを切りセグメントごとに型化をしていく場合、セグメントごとに担当を配置することで習熟しやすくするという効果が見込めます。
セグメントごとに小規模なチームを編成するというのも有効な手段です。
ただし担当セグメントを固定化してしまうとインサイドセールスからの送客コントロールが複雑になるためある程度柔軟に運用ができることは必要です。
5.カスタマーサクセスプロセスの改善
ここまでマーケティングチームのリード獲得からインサイドセールス⇒フィールドセールス⇒カスタマーサクセスに至るまで、LTVが高くなると見込まれる顧客を優先して送客してきています。カスタマーサクセスプロセスでは実際にLTVを最大化するため
・既存顧客の満足度やロイヤリティを向上させる
・サービスを継続利用(継続課金)してもらう
・既存顧客からの契約額(支払額)を増加させる
という役目を担います。
顧客への提供価値>顧客から受け取る対価という状態であれば、基本的には継続利用が期待できます。
この時、顧客への提供価値が下がると顧客から受け取る対価を下げる(値下げをする)ことで継続利用を維持することになってしまいます。
目指すべきは、顧客への提供価値を高めながら対価を上げていくことでサービス継続と契約額増加を実現し、LTVの増加させることです。
提供価値を高めるには顧客とサービス導入における成功の定義をすり合わせ、その実現に向けて能動的に働きかけていく必要があります。
顧客単独で顧客の期待する成功のラインまでたどり着くことは非常に難しいことが多く、カスタマーサクセスの存在が不可欠な理由でもあります。
ただし、全ての顧客に対し人的リソースをフルに投下し成功の実現まで能動的に働きかけることはコスト上難しいため、
顧客の規模(得られる期待LTV)により実施するサポート内容を以下のように変える必要があります。
▽ハイタッチ
期待LTVが最も高く人手をかけても元手が取れる。
カスタマイズ性の高いオンボーディングや、毎月の進捗確認打ち合わせ、担当者間による満足度の定期的な確認、現場視察などを実施
▽ロータッチ
ハイタッチほどの期待LTVはないものの、担当をつけ個別に対応したい層
パッケージ的なオンボーディングやシステム的な現状満足度調査などを実施
▽テックタッチ
期待LTVが低く担当者をつけずEメールなどのシステムのみで対応する層
ウェビナーなどメール以外でも1対他に親和性のある方法が用いられる
上記顧客ごとの必要なカスタマーサクセスプログラムを定め、必要な人員数が規定されることでマーケティング⇒カスタマーサクセスまでの送客コントロールの指標となります。
なお、LTVの低い顧客をカスタマーサクセスに送客した場合画一的なカスタマーサクセスプログラムで対応できない(対応し辛い)上早期解約につながり、カスタマーサクセスプロセスの生産性を落とすことにもなります。
6.全体最適を図る上で考慮すべき2つのポイント
上述の通り、まずはボトルネックのプロセスを特定し解消していくのが基本的な考え方となりますが、実行フェーズでの難しさとしては各メンバーが全体最適思考を持ち行動できるようにすることです。各プロセスでの個別最適に走らず全体最適を各メンバーが意識し実行する状況を実現する難易度は決して易しくありません。
この状況を実現する上で重要になるのは、共通のセグメント認識(セグメント定義と見込客の質)と評価制度です。
共通のセグメント認識があれば、前工程で送客量を絞る必要がある際に後工程の望む(全体最適に繋がる)顧客を優先して送客することができます。
事業の状況は絶えず変動し、プロセスごとの過不足は都度変動します。
現場のメンバーが送客コントロールをできる状態になると事業方針の伝達を待たずして現場が全体最適につながる動きを取ることができるようになります。
さらに、副次的な効果として共通のセグメント認識があればフィールドセールスでうまくいった事例をインサイドセールスに展開するなどプロセスをまたがった事例共有をしやすくしたり、各プロセスで作成したクリエイティブを共有しやすくすることにもつながります。
各プロセス内で閉じがちな改善を、プロセス間でまたがって進めていくことが可能になり組織としての改善スピードを高めることが可能になります。
現場で全体最適につながる動きを実現するにあたり、もう一つ重要な点が評価制度です。
個別最適に走らないようにするためには
・送客量のみを個人評価/目標としない
・展開率のみを個人評価/目標としない
ようにする必要があります。
前者については送客量を絞るOPSが取れなくなる弊害があり、後者については逆に質を下げて送客量を増やす動きが取り辛くなる(後工程の担当者が送客の質低下を嫌がるため)弊害があります。
この状況では全体最適のキーポイントである送客量のコントロールが現場の抵抗により実行できなくなってしまいます。
上記のみで評価をしない、ということはデジタルに数値のみで評価(賞与やインセンティブ付与額の決定含む)ができないということになります。
そのため、評価者は能力評価を用いる必要があり、評価者(リーダー)はメンバーの納得感のある能力評価をつけることができる人を据える必要があります。
よって、現場で一定業務経験を積みパフォーマンスをあげた方を評価者に据えるのが理想です。
7.インサイドセールス/カスタマーサクセスに転職をご検討中の方
最後までお読みいただきありがとうございました。9EキャリアではThe Model型事業を成長させていくための核となる、インサイドセールス/カスタマーサクセス職を志望している方に特化した転職支援サービスを提供しております。
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導入が進めば経営改善するサービスは多数存在しています。
従って、今後はサービスの構築以上にサービスに興味をもってもらい、活用を促進することが重要になってきます。
その主要な役割となるのが、インサイドセールス職およびカスタマーサクセス職なのです。
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