書籍「科学的な適職」から学ぶキャリアの選択方法

「科学的な適職」ってどのような本?

どのような人が読むべきか

将来、キャリアへの不安を感じている人向けに書かれた本です。

どのような内容か

科学的根拠に基づきキャリア選択という正解のない悩みに答えを出す方法を具体的に解説した本です。
著者がこれまで読了してきた10万本の科学論文と600人を超える学者や専門医へのインタビューから職業選択や人間の幸福、意思決定に関するものをピックアップ。
追加調査として組織心理学や経済学などのジャンルから数千の研究論文を集め人間の幸福や意思決定に詳しいエキスパート50名に適職を選ぶポイントは?といった質問を重ねて書かれており、根拠に基づいてキャリアの選択方法をおすすめしているため納得感があります。

著者はどのような人物か

鈴木祐(すずきゆう)さん、サイエンスライター。
出版社勤務を経て独立し10万本の科学論文読破と600人を超える海外の学者、専門医へのインタビューを重ねながらヘルスケアや生産性向上をテーマとした書籍や雑誌の執筆を手がけています。
他著書に「最高の体調」、「ヤバい集中力」などがあります。

なぜ多くの人がキャリア選択に失敗するのか

多くの人がキャリア選択に失敗しています。
例えば、36.5万人を対象にした厚労省の調査では入社から3年以内に会社を辞めた人間の割合は大卒でも30%を超えており、欧米やアジア圏での2万件の調査ではヘッドハンティングにより他社の管理職や総合職に転じた採用者の4割は1年半以内にクビになるか自らポストを辞退しています。

なぜこういった事がおきるのでしょうか。
ハーバードビジネススクールが行った調査で転職に失敗した人の共通項を調べたところもっとも多かった失敗は「下調べをしっかりしなかった」というものです。
以下の3つが下調べが足りないまま転職して失敗する定番のパターンです。
  1. お金につられる(給料アップにひかれて転職を決めたはいいが前職でつちかったコネを失うなど)
  2. 逃げで職を決める(現在の仕事に不満がつのり逃避で職を転々とする)
  3. 自信がありすぎる、またはなさすぎる(私はどのような会社でもやっていけると思い込んだりあんなよい会社は自分にむかないと決めつけるなど)
また、人間の脳は職業選択に向いていません。
以下のような思考のかたよりがあるのが普通で、キャリア選択の精度が低くなってしまうのです。
  • できるだけ難しい決断を避け手軽に利用できる情報だけで決めたがる
  • あきらかに現状を変えたほうが良いにもかかわらず現状維持をしたがる
  • 憧れの会社に入ったはよいが時間がたつうちに熱がさめていく

正しいキャリア選択の仕方とは

こうした問題に対し本書では仕事選びにおける意思決定の精度を高め、正しいキャリアを選び取る確率を上げ読者の幸福が最大化される仕事をみつけるための方法を提示してくれています。

実は誤っている仕事の選び方

まずは一般的に正しいと信じられている仕事の選び方について査読を経た調査をもとに反証しています。

【NG例①】好きを仕事にする
仕事に情熱を持てるかはあなたが人生でそそいできたリソースの量に比例します。
情熱はあとからついてくるものでやっていくうちに楽しくなっていき天職になるのです。
この仕事が好きだから、で飛び込むと経費の精算や対人トラブルなど現実的な仕事とのギャップにモチベーションが落ち仕事が長くつづきません。

【NG例②】給料の多さでえらぶ
給料と仕事の満足度の調査結果では相関係数が0.15と低くほぼ無関係といえるレベルでした。
令和元年に内閣府が発表した世帯年収と満足度の変化でも世帯年収300-500万円のあたりから満足度の上昇が鈍り1億円に達しても大した数値の変化がありませんでした。
これはお金をもってもすぐに喜びが消える(どれだけ好きなケーキでも本当においしいのは最初の1個)、まわりが全員お金もちになると幸福度は上がらないという事に起因します。

【NG例③】業界や職種で選ぶ
伸びている業界に就職しようという話も多いですが専門家だろうが有望な業界は予測できません。
過去に専門家が未来予測した結果をあつめた結果その程度は50%(コイン投げとかわらない)でした。
また個人的な興味の変化も予測できません。

【NG例④】仕事の楽さで選ぶ
楽すぎる仕事はあなたの幸福度を下げます。
適度なストレスがないと無気力・退屈感が生まれ幸福度が下がるのです。
昇進すると仕事量は増えますが裁量が高まるため、作業を選べたり自分のペースで行えたり嫌な人とつきあわなければならないリスクも減り適度なストレスに調整しやすく幸福度が上がります。

【NG例⑤】性格テストで選ぶ
性格診断テストで多く使われているエニアグラムやMBTI、RIASECなどは科学的根拠がなく職業選択に使えるものではありません。

【NG例⑥】直観で選ぶ
ボーリング・グリーン州立大学が行った研究では
  1. 合理的:論理的に考えて選択する
  2. 直観的:直観や感覚で決定する
  3. 依存的:他社のアドバイスをもとに決定する
  4. 回避的:決定を引き延ばそうとする
  5. 自発的:できるだけ早く決定を終わらせようとする
上記それぞれの意思決定スタイル別に成果の得やすさを分析したところ合理的タイプの圧勝でした。
直観的なタイプは自分の選択は正しいと答えるわりに友人や家族からの評価が低く、自己正当化をする傾向にあります。
他の研究でもこの傾向は一貫して確認されており、ほとんどの人生の選択においては論理的に考える人のほうが人生の満足度が高く、日常のストレスも低いようです。

【NG例⑦】適正に合った仕事を求める
仕事のパフォーマンスと事前のチェックに相関があるか調べた調査によると一番高い相関係数でもワークサンプルテストの0.54でした。(ワークサンプルテストとは会社の職務に似たタスクを事前にこなしてもらい、その成績で評価する手法です。)
他の事前チェック方法でもインターンシップで0.44、ふつうの面接で0.38、前職の経歴で0.18など就職後のパフォーマンスを測る上では約にたたないようです。
また、強みをいかせば仕事がうまくいくという考えにも疑問符がついています。
強みと仕事の満足度の相関を調べた調査では
  1. 優位な関係はあるものの、その相関はとても小さい
  2. 組織の中に自分と同じ強みをもった同僚が少ない場合には仕事の満足度が上がる
というものでした。
よって、をいま働いている会社での満足度を高めるために強みを活かすことはできますが適職選びには使えないといえます。

幸福度を上げる仕事の選び方

では、どのように仕事を選べばよいのでしょう。
著者はあなたの幸福度を上げる要素を満たす仕事を選ぶべきといっています。
幸福度を上げる要素としては以下の7つがあるようです。

①自由:仕事に裁量権はあるか
作業の内容をどれくらい自分の意思で決められるかは仕事の満足度を大きく左右します。
数ある研究の中でも自由ほど仕事の幸せを左右する要素はありません。
労働場所や時間、仕事の進め方やペースはどこまで自由がきくかという観点で仕事を選んでみてはどうでしょうか。

②達成:前に進んでいる感覚は得られるか
人間のモチベーションがもっとも高まるのは、少しでも仕事が前に進んでいるときです。
企画書の作成に必要なデータが見つかった、いままで悩まされていたバグが解消された、マネジャーから褒められたなどどんなに小さな達成でもモチベーションが高まりやりがいの感覚が生まれます。
仕事をさがす上ではフィードバックがどのように得られるか、仕事の成果とフィードバックが切り離されていないかをチェックしてみてはどうでしょうか。
例えばあなたが料理人だったとすると自分で作った料理にお客さんが喜ぶ姿を自分の目で確認できればすぐに結果のフィードバックを得られ小さな達成感を細かく味わえます。
逆にフィードバックを得るまでに1ヶ月もかかるようではモチベーションは向上しにくいです。

③焦点:自分のモチベーションタイプにあっているか
適職を探すのに唯一役立つとされている性格テストが制御焦点です。
人のタイプを攻撃型/防御型にわけ、それぞれに適した職業があるとしています。
例えば攻撃型タイプが適した職業はコンサルタント、アーティスト、テクノロジー系、ソーシャルメディア系、コピーライターなどです。
防御型タイプが適した職業は事務員、技術者、経理系、データアナリスト、弁護士などです。
あなたのタイプがどちらか気になる方は診断方法が記載されていますので、本書を購入しお確かめください。

④明確:なすべきことやビジョン、評価軸はハッキリしているか
信賞必罰が明確でない企業では社員の死亡率や精神病の発生率が上がるという研究があるように人は賃金の不公平感に敏感です。
タスクの明確さが低いのも問題です。
どんな職場で働くと体を壊すのか、という調査ではタスクの不明確さと社員の慢性疲労や頭痛、消化器官の不調と大きな相関がありました。
特に仕事で何を求められているか分からない、上からの指示が一貫しないの2つは悪影響が大きいです。
会社に明確なビジョンがあるか、その実現のためにどのようなシステム化を行っているか、人事評価はどのようになされ個人の貢献を失敗を目に見えるかたちで判断できる仕組みが整っているかはチェックしてみるとよいでしょう。

⑤多様:作業の内容にバリエーションはあるか
自分が持ついろいろなスキルや能力を幅広く活かすことができる、業務の内容がバラエティに富んでいるという2つの条件を満たす職場ほど幸福度は高まります。
仕事の始まりから終わりまでの工程にどこまでかかわることができるかはチェックしてみるとよいでしょう

⑥仲間:組織内に助けてくれる友人はいるか
職場における人間関係を調べた調査では
  • 職場に3人以上の友達がいる人は人生の満足度が96%上がり、同時に自分の給料への満足度は2倍になる
  • 職場に最高の友人がいる場合は仕事のモチベーションが7倍になり、作業のスピードがあがる
という結果がでました。
また別の調査ではこまったときに自分を助けてくれる同僚がいると、仕事の満足度と相関するという結果がでています。
私たちは自分に似た人を好きになりやすいという傾向があるため組織に自分に似たひとがどれくらいいそうかはチェックしてみるとよいでしょう。

⑦貢献:どれだけ世の中に役立つか
シカゴ大学が行った調査では高い満足度を得やすい職業の共通点として他人を気遣い、他人に新たな知見を伝え、他人の人生を守る要素をもっている点があげらました。
脳科学の研究でも社会に役立つ行為をした直後には頭のなかにドーパミンがあふれだすことが分かっています。
自分の行為が他人の役にたった事実を可視化しやすいほど満足度がえられやすいといえるでしょう。
その点ではエンドユーザーとのふれあいが多い仕事やクライアントと直にやりとりできる職業だと貢献を感じやすいといえます。

幸福度を下げる仕事とは

一方で、いくら幸福度のあがる仕事についたとしてもマイナス要素があればメリットが無になりかねません。
以下特徴がある職場は、従業員に悪影響をおよぼすようです。

①時間の乱れ
働く時間の混乱が原因で健康リスクが増大します。具体的には、
  • シフトワーク(夜勤など)
  • 長時間通勤
  • 長時間労働
  • ワークライフバランスの崩壊
上記があてはまる場合健康リスクが増大してしまいます。

②職務の乱れ
仕事や報酬の内容に一貫性がない場合も体を崩す原因となります。具体的には以下のような例です。
  • 雇用が不安定
  • 周りのサポートがない
  • 仕事のコントロール権がない
  • 組織内に不公平が多い
転職先を探す場合上記のような面がないか転職エージェントや面接官に確認しておけるとよいでしょう。

キャリア選択の意思決定精度を高める3つのツール

キャリア選択で考えられる選択肢(A社に転職する、現職に留まる、独立するなど)について幸福度を上げる要素・幸福度を下げる要素で評価していきまます。
意思決定のツールとして3つのツールが紹介されています。

①プロコン分析
答えを出すべき悩みについてプロ(メリット)コン(デメリット)の要素をリストアップします。
リストアップしたプロとコンについて重要度を5点満点で採点します。
プロとコン療法の重要度を合計して悩みのメリットとデメリットどちらが大きいかを算出します。
たとえば、この会社を辞めるべきかという悩みをプロコン分析すると以下のようになります。

プロコン分析例

②マトリックス分析
比較する基準として幸福度を高める要素、下げる要素をリストアップします。
現時点で比較が不要な基準は削除しても大丈夫です。
次に比較する候補(具体的な社名や職種、業種など)を並べます。
そして、それぞれのマスに5点満点で評価を記入します。
例えばA社は労働時間が長いのであればA社の労働時間に0点や1点をつけ、B社は作業の自由度が高いと判断できる場合は4点や5点をつけるといった具合です。

マトリックス分析例1

次に、それぞれの評価基準ごとに重みを3点満点で設定します。
それぞれの基準について大事だと思うなら3点、まあまあ大事だと思うなら2点、普通なら1点をつけます。
最後に5点満点で評価した点数と重みを各マスごとにかけ算しすべての点数を出します。
比較候補ごとにすべての点数を足し合わせて終了です。
どの候補を一番優先すべきか意思決定できます。

マトリックス分析例2

→C社がもっとも評価がたかく選択した方がよい、という結論になります。

③ヒエラルキー分析
ヒエラルキー分析は手順が複雑ですが意思決定の精度を高めるツールとしてはベストと言えます。
「ベストな転職先を探す」ための分析をする場合まずは比較する基準として幸福度を高める要素、下げる要素をリストアップします。
基準の数によって割り振る評価値を変えます。
今回は基準の数が12個なので「1,3,5,7,9,11,13,15,17,19,21,23」の12個の数字について評価する順番を決め割り振ります。
評価が高いものには大きい数字を、評価が低いものには小さい数字をつけます。
次に各評価値を「1,3,5,7,9,11,13,15,17,19,21,23」の合計値144で割って以下のように重要度を算出します。

ヒエラルキー分析例1

次に、ベストな転職先として候補にあげる会社をリストアップします。
リストアップした会社が3社の場合「1,3,5」の評価値を、例えば以下のようにつけていきます。
  • 5=良い
  • 3=普通
  • 1=悪い
なかにはA社とB社で同じくらいかな、と思う項目もあるかもしれませんが必ず全ての選択肢について優劣をつけます。
この各評価値を「1,3,5」の合計値で割り重要度を算出します。

ヒエラルキー分析例2

最後に、重要度をかけあわせすべてを足し合わせ、総合評価を算出します。

ヒエラルキー分析例3

→A社がもっとも総合評価が高く選択した方がよい、という結論になります。
このように、できる限り意思決定の精度を高めて選択しようとしても評価に主観が入るため偏った判断になってしまう可能性は残っています。
偏りを防ぐため以下のような点に気をつけながら判断していきましょう。
  • この選択をしたら10分後/10ヶ月後/10年後どう感じるか?
  • この選択により、いまから3年後完全に失敗に終わった場面をイメージしその原因になりうる事を書きだす。 その原因がおきたプロセスを時系列で並べそうした原因が実際におきないよう対策を検討する。
  • 1日の終わりに転職に関する意思決定の内容を3人称(彼/彼女)で書き出す。
    日記には最低15分かけ、2段落くらいの文章を書く(ただしく自分を見つけるようになり意思決定の精度が上がる)。
  • 友人にアドバイスをきく(客観視してもらえる)。
      具体的にクローズドクエスチョンで聞いたほうがよいアドバイスをもらいやすい(例:いまあの会社に転職をすると、自分としては前職のスキルをより活かしやすくなると思うのだけど、あなたは賛成?)。

9E大日向の感想

「科学的な」とタイトルにあるように根拠のある調査結果を用いたキャリア選択方法を提案している本書はとても有用だと思います。
給料や直観、適正などで選んだ結果が自分を必ず幸福に導いてくれるとは限りません。
その点、本書で紹介している幸福になる7項目は株式会社9Eでも社員に提供していきたいと思える要素であり個人的な体験からみても納得感が高いです。

しかしながら今回紹介されている幸福度を上げる要素を全て満たした職場を見つけ、採用されるのは容易ではないでしょう。
仮に入社直後は満たしていても、上司や事業を取り巻く環境が変わった瞬間満たさなくなることもありえます。
そうなると、究極は自分で全てコントロールできる「起業」を選ぶしか全ての要素を満たし続けることは難しいかもしれません。

ただし、個人的には安易に起業を選ぶことはおすすめできません。
充分な資金、スキル、人脈を得てから起業した方が成功確率は上がりますし精神的な安定感も増すでしょう。
いずれにしても本書で紹介した選択の仕方は「現時点であなたの幸福度を最大にしてくれる可能性のある仕事の選び方」です。
スキルや人脈が不十分の場合そもそも取りえる選択肢自体が少なくなってしまいます。
そのため、将来的に幸福度を最大にしていくため自己研鑽し選択肢を広く取れるようにしておくというスタンスが重要でしょう。

この点については 組織に依存せず生きていくためになぜ「個人の生産性向上」が必要なのか で記載している通りです。
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